AKANE -もう一度、逢いたい-
そして、あれから貴之に何も言えず、相手も何も言ってこない。
呼び止めることも、挨拶してくることもしない。
目が合うことも一度もなかった。
でもね、あたしはつい見てしまう。
どうしても、どうしても…。
どうしてかは、まだまだ分からないけれど…。
「茜」
たったひとりで廊下を歩いていた。
後ろからあたしを呼び止める声が聞こえた。
すぐに振り返る。
しかし、そこには蒼次がいた。
「貴之かと思った?」
「…別に」
「そっか、思ったんだ」
蒼次はあたしをニヤニヤして見てきて、イラついた。
「………」
でも、あたしも何も言えなかったんだ。
もしかしたらって思ったのかもしれない。
もしかしたら、声を掛けてくれたのかもしれないと。
どうして彼だと思ったのか理解できないけれど。