AKANE -もう一度、逢いたい-
「…明音、早く行こう」
急かすかのようにその友だちは彼女の袖口を結構強めに引っ張っていた。
「…うん。
じゃあ河崎さんありがとね」
そして彼女はその薄暗い教室を後にした。
同時にかすかな内緒話が聞こえてくる。
「…あいつには
近づかない方がいいよ」
「そう?」
「だって良い噂聞かないよ。
まず格好から釣り合ってないし」
「きっと良い子だと思うよ。
試合結果教えてくれたもん」
「キモいって!!」
「どうして?」
「だって、あんな暗い奴が
王子たちなんかに
相手にされるわけないじゃん!!」
「そんなことないと
思うけどなぁ…」
「明音は良い子過ぎるの。
ヤバい、キモ過ぎて
鳥肌立ってきたんだけど!」
まだ遠くで何か言っていたけど、それ以上は小さ過ぎて聞き取れなかった。
『キモい』
それはあたしのこと。
そんなこと言われるのは中学から日常茶飯事。
別に気にならないというか慣れてしまった。
むしろもっともっとあたしを嫌いになれば良い。
誰も近寄らないぐらいに。
あたしに眩しい世界はいらない。
影さえあれば生きていける。
存在さえも消えてしまえばいいのに。
「あたしは…」
窓のほうに目を向ける。
茜色の空に変わりつつある空模様。
思わず苦い顔をする。
そしてつぶやいた。
「貴之なんて、大嫌い」
そして空に向けた目をまだ賑やかなグランドに向け、睨みつけた。