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「さぁ、待っていたわ。始めましょう」
「はい」
順調に進んでいく、いつもの時間。
あたしが間違えるたび、お母様の・・・いや、主人の声が飛んでくる。
「すみません、お母様」
「もう一回」
「はい」
こんなやりとりばかり。
親子って、なんだろう。
あたし、時輪 奏(トキワ カナデ)は、有名音楽大学院の教授である父、幼い頃に天才少女ピアニストと言われた母のもとに生まれた。
お父様は仕事が忙しく、あまり家にいなかった。
そのかわり、お母様はいつもあたしと一緒にいた。
家にピアノがあったからお母様が弾いて、あたしが歌って。
毎日何かしらの音楽を聴いていた。
幼稚園に入ってから本格的にお母様に習い始め、数々のコンクールで賞をもらった。
金賞をもらうと、お母様もお父様も喜ぶ。
あたしは、2人のそんな笑顔が大好きだった。
・・・なのに・・・