ワンだふる ワールド 9 ~ワンコの未来~《TABOO》
そこへ1台の軽トラックが止まった。
「沙希…か?」
驚きながら降りたのは、初代ハチ公の賢吾。
地元に残って稼業の漁師を継いだ彼。
真っ黒に焼けた逞しい体のグレートデンだ。
再会も束の間、彼はハチを一瞥すると、仕事に行くと走り去っていった。
憮然とするハチを宥めながら、灯台へ続く石段の途中のベンチに座った。
紅く焼けた夕陽に輝く海を眺める2人。
長い沈黙を破って、意を決したハチが口を開いた。
「俺、沙希と結婚したい。」
突然のプロポーズに驚いたが、
「ありがとう!」
と笑顔を返す。
途端、感極まったハチが石段を駆けおりた。
砂浜まで走って行くと、流木であいあい傘を描いて手を降っている。
――もぉ、恥ずかしいよ…ハチ
照れながらも、記念に写真を撮っておこうとカメラを構えた。
焦点を合わせようとレンズを覗くと、沖の方を進む船が何故か旗を掲げている。
《 幸 せ に な れ よ 》
望遠で見ると、グレートが旗を持ちながら手を振っていた。
海のように広い彼の男気は、私の瞼にくっきりと焼き付いた。
――ごめん、ハチ
――私、彼にも釣られちゃったみたい
END