◇桜ものがたり◇
紅葉
桜山が見事な紅葉の彩りを見せる頃、
お屋敷の桜の樹が茜色に染まり、
絢爛たる華やぎを辺り一面に披露していた。
祐里は、毎日、桜の樹の下に赴いては、
はらはらと舞い散る落ち葉へ語りかける。
「桜さん、綺麗な色でございますね。
錦の反物を織っているようでございます。
この反物は、祐里に似合いますでしょうか。
光祐さまにご覧いただきとうございますね」
黄色から茜色に染まった葉は、祐里の周りを包んで舞い散り、
問いに応えて、祐里に錦を纏わせる。
桜の樹は、愛しい祐里を、落ち葉で優しく包んで、
しあわせを感じていた。
祐里の足元には、艶やかな落ち葉が錦の絨毯のように広がっていた。
祐里は、風に舞い散る落ち葉を庭箒で桜の樹の根元に掃き寄せる。
この落ち葉は、お屋敷の土に返り、再び、桜の樹の養分となる。
「桜さん、落ち葉を光祐さまにお送りいたしましょうね」
祐里は、美しい茜色の落ち葉を拾って手のひらで包み込み、
光祐さまへの想いを籠めて書いた手紙に同封した。
祐里の熱い想いは、茜色の葉に託されて、
光祐さまの住む都へ旅に出る。