◇桜ものがたり◇
光祐さまは、旦那さまのお供で度々晩餐会に参会し、
また大学の友人達の邸宅に招かれて、
数々の良家の令嬢とまみえて、人気を博していたにもかかわらず、
祐里以外の女性にこころを動かされる事はなかった。
その後、旦那さまのもとには、
数々の良家より祐里の見合い話が届けられたが、
祐里の結婚は自由にさせる考えで断っていた。
そして、今では、祐里を我が娘のように思い、
(どれほどの良家であろうと簡単に嫁に出すものか)
と考えていた。
榛文彌は、転属先で、酒宴の帰りに冬枯れの山に迷い込み、
人に語れないほどの恐ろしい体験をして、
桜林で倒れているところを捜索隊に発見されたらしい……
と、巷に風の便りが流れた。
その後、長い年月、文彌の消息を耳にすることはなかった。