◇桜ものがたり◇
旦那さまからの電報を受け取った光祐さまは、心臓が止まる思いがした。
春の休暇で帰った時には、縁談話はなかった筈なのに、
青天の霹靂の気分だった。
取る物も取りあえず駅に行き、列車へ飛り乗り、
列車の中では、祐里の結婚相手をぐるぐると暗中模索していた。
帰る時刻を知らせていないにも拘らず、
桜川の駅では森尾が車で待機していた。
突然、旦那さまから、桜川駅へ光祐さまを迎えに行くようにと指示され、
森尾は、訳が分からず、光祐さまを固い表情で出迎えた。
光祐さまは、父上さまの決意の固さを感じ、
この最大の困難に思いを巡らし、
これから起こる事に立ち向かい、
今回も必ず祐里を守り抜こうと決心する。
もしもの時は、自分の祐里への想いを正直に
父上さまと母上さまに話して許しを請おうと決意する。
光祐さまは、車がお屋敷に到着するなり、
奉公人たちが出迎える間もない速さで、
ただいまも言わずに旦那さまの書斎へ駆け込んだ。