◇桜ものがたり◇
「さて、祐里の気持ちを正直に聞かせておくれ。
私たちや光祐に遠慮しなくてもいいのだよ。
他家に嫁ぎたければ、それは祐里の自由だし、
その時には、娘として立派な支度をするつもりだからね」
旦那さまと奥さまは、期待を込めて身を乗り出して祐里を見つめた。
祐里は、旦那さまと奥さまの勢いに背中を押されるようにして、
遠慮しながらも、秘めていた想いを語る。
「御婆さまのご遺言にとても感謝申し上げます。
私には、もったいのうございます」
祐里は、ここで胸がいっぱいになり、大粒の涙をはらりと零す。
旦那さまと奥さまは、労わるように祐里を見つめていた。
光祐さまは、落ち着くようにと、祐里の手をゆっくりと撫でる。
祐里は、光祐さまに励まされて言葉を続ける。
「私は、分不相応と思いながらも、
ずっと光祐さまをお慕い申し上げて参りました。
これからも、旦那さまと奥さまと桜河のお屋敷で暮らせると思うと
嬉しいばかりでございます……
本当に祐里でよろしゅうございますの」
祐里は、真っすぐに光祐さまを見つめて、
旦那さまと奥さまへ視線を移した。
光祐さまの愛情溢れる瞳と旦那さまと奥さまの期待の表情に包まれた。
「勿論だとも。私たちは、祐里しかいないと思っているのだよ」
旦那さまは、満面の笑顔で頷いた。
「光祐さん、祐里さん、おめでとうございます。
ここ数日の旦那さまのご機嫌なお顔の訳がようやく分かりましたわ。
わたくしにも内緒にされてございましたのね」
奥さまは、晴れやかな笑顔で、
愛しい光祐さまと祐里のしあわせな姿に目を細めた。