◇桜ものがたり◇

「皆が喜ぶ顔を同時に見たかったからね。 

 そうと決まれば、すぐにでも婚約披露をしなくてはなるまい。

 善は急げというから、婚約披露宴は、明後日の大安に決まりだ。

 結婚は、光祐が大学を卒業して、我が社に入ってからになるだろうが、

 薫子、早速、準備をお願いするよ」

「はい、旦那さま。

 花婿、花嫁の双方のお支度でございますから、楽しみでございます。

 桜河家に相応しい立派なお支度をいたしましょうね」

 奥さまは、瞳をきらきらと輝かせる。


「それから、祐里。

 今からは、私たちのことを遠慮せずに、父親、母親と思っておくれ。

 祐里は、桜河家の人間になったのだからね。

 さぁ、早速、呼んでおくれ」

旦那さまと奥さまは、熱いまなざしで祐里を見つめる。


「父上さま。母上さま。祐里は、しあわせものでございます」

祐里は、お二人の熱いまなざしに気恥ずかしさを覚えつつも、

 はっきりとした声で、満面の笑顔で応える。


 旦那さまと奥さまは、祐里を抱きしめた。


 祐里は、お屋敷にこれからも居られると思うと、胸がいっぱいになり、

 旦那さまと奥さまに抱かれて、しあわせの涙を溢れさせた。


 光祐さまは、その様子を安堵して見つめていた。

 
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