◇桜ものがたり◇
光祐さまは、安堵した途端に、
午後から何も食べていないことを思い出し、
食堂へ向かうと、紫乃の作った夕食を至福の気分で食べ終えた。
祐里は、しあわせな微笑を湛えて、
光祐さまが安堵して、
美味しそうに召しあがる様子を見つめていた。
心配して台所で待機していた森尾夫婦と紫乃は、
二人の吉報を聞いて、嬉し涙で見守っていた。
「爺は、光祐坊ちゃまと祐里さまのおしあわせな御姿が、
何より嬉しゅう御座います」
森尾夫婦は、手拭いで何度も目頭を拭った。
「明日は、ご婚約のお祝いに、
坊ちゃまの大好きな桜葉餅をお作りしましょうね。
ご近所にもお届けしましょう。
皆も坊ちゃまと祐里さまのご婚約を喜んでくださいますわ。
婆やは、嬉しいばかりでございます」
紫乃は、窓から見える桜の樹を見上げた。
「ご馳走さま。爺、あやめ、婆や、ありがとう。
いろいろと心配をかけたけれど、
皆が大好きな祐里をしあわせにするよ。
これからも、ぼくに力を貸しておくれ」
光祐さまは、森尾夫婦と紫乃に頭を下げる。
「光祐坊ちゃま、もったいないお言葉で御座います。
私たちは、何時でも光祐坊ちゃまと祐里さまの味方で御座います」
光祐さまと祐里は、改めて森尾夫婦と紫乃の深い愛情に、
胸がいっぱいになった。