◇桜ものがたり◇
陽光の章
桜河伝説
お屋敷の桜の樹が、今年も華やかに
満開の時期を迎えた暖かな春の午後。
祐里は、五歳になった双子の優祐と祐雫と一緒に、
桜の樹の下で過ごしていた。
奥さまは自室の窓から、紫乃は台所の窓から、
その様子を微笑ましく見守っていた。
「優祐ばかり、母上さまのお膝に座ってずるうございます」
祐里の膝の上には、そこが居場所のように何時も優祐が陣取っていた。
「祐雫は、父上さまのお膝でしょう。
毎日、お仕事へ連れて行っていただいてはどう」
光祐さまが在宅の時には、祐雫は、光祐さまの膝の上に座っていた。
「祐雫さん、こちらへいらっしゃい。
おはなしをして差し上げましょうね」
祐里は、にっこりと微笑んで、祐雫に手を差し出す。
膨れっ面の祐雫は、祐里の手に飛びつくと、
横にぴったりと寄り添って座った。
祐雫は、祐里の香りに包まれてしあわせな笑顔を浮かべた。