◇桜ものがたり◇

「祐雫、話が長引いて、随分と待たせてしまい、すまなかった。

 優祐はどうしたの」

 光祐さまは、愛らしく駆けて来た祐雫の頭を撫でた。


「お手洗いでございます」
 
 祐雫は、手洗いを指し示す。


「一人で淋しくなかったかね」

 光祐さまは、祐雫の上気した顔に違和感を覚える。


「あちらのおじさまが、お相手をしてくださいましたので、

 大丈夫でございました」

 祐雫は、文彌と今まで話をしていた椅子を振り返る。


「どの方」

 光祐さまは、辺りを見回した。


「あら、いらっしゃらない。ホールに入られたのかしら。

 父上さまと母上さまのお知り合いと申されてございましたので、

 お目にかかって頂きとう存じましたのに」

 祐雫は、狐に抓まれた気分になっていた。

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