◇桜ものがたり◇
追憶
鶴久柾彦(つるくまさひこ)は、車窓から夕暮れの川原を眺めていた。
茜色に染まる秋桜の帯は、愛しい初恋の姫・桜河祐里の笑顔と重なる。
儚げでありながら、強い意思を持った気高き姫。
守人としてすぐ傍に居ながら、手の届かなかった姫。
それでも、同じ時間を共有できるだけで嬉しかった。
その姫も、幼き頃から慕い続けていた光祐さまと結婚して、
桜河家の若奥さまとなり、双子の母となっていた。
手が届かないと分かっていても、恋して止まないのは姫だけだった。