◇桜ものがたり◇

 川原を過ぎ、桜橋を渡った所で、光祐さまは、祐里から手を離し、

 しきたりを重んじて一歩前を歩いた。


「桜河のお坊ちゃま、お帰りなさいませ。

 祐里さま、こんにちは」

 光祐さまと祐里は、家並みの続く道々で、

 光祐さまの帰省を祝いに出てきた衆(みな)から声をかけられる。

 衆(みな)は、立派になった光祐さまを仰ぎ見る。


「ただいま帰りました。お元気で何よりです」


「こんにちは。ご機嫌いかがでございますか」


 その一人一人に光祐さまは、会釈を返し、

 祐里は、一人一人に丁寧に声をかけた。


 光祐さまの帰省の知らせは衆(みな)に知れ渡っていた。

 桜川地方では、桜河のお屋敷に足を向けられないと、

 衆(みな)は、口を揃えて称える。

 旦那さまも奥さまも光祐さまも衆(みな)から敬われていた。


 そして、祐里の出生を知っている衆(みな)でさえ、

 今では祐里のことを桜河のお嬢さまとして敬っていた。

 祐里が道を通るだけで、

 衆(みな)は不思議としあわせな気分になるのだった。

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