◇桜ものがたり◇
祐里は、院内の見舞いを終えて、
副院長室前の廊下で、柾彦に出会った。
「姫、お疲れさま。美味しい珈琲をご馳走しますよ」
白いワンピース姿の祐里は、
病院の廊下に差し込む秋の和(なご)やかな陽射しに輝いていた。
柾彦は、昨夜から急病の患者にかかりきりで、心身ともに疲れていた。
幼馴染の林杏子から、先日、なぜ結婚しないのかと、
突(つつ)かれたことも影響してか、こころが祐里の優しさを求めていた。
柾彦は、杏子に突かれて、結婚について考えてみた。
(これから先、結婚したい女性に巡り合えるのだろうか・・・・・・)
考えれば考えるほど、現実味がなかった。
こころに浮かぶ女性は、唯一祐里だけだった。
手が届かないと分かっていても、時々祐里と話ができるだけで、
柾彦は、しあわせだった。
「柾彦さま、お疲れさまでございます。
お心遣いありがとうございます」
祐里は、柾彦の後から、副院長室に入ると、静かに扉を閉めた。