◇桜ものがたり◇
突然、柾彦は、我を忘れて力強く祐里を抱きしめる。
祐里は、消毒液の匂いに包まれた。
柾彦は、祐里の温もりと甘い香りに包まれて、しあわせを感じる。
「柾彦さま、何かございましたの」
祐里は、柾彦の今までにない行為に驚きながらも、
母のような優しさで柾彦を包んだ。
柾彦からは、心身の疲労と激しい恋慕が感じられた。
「姫、しばらくの間、このままでいてもいいですか」
柾彦は、祐里の耳元で囁き、自分の行為を恥じながらも、
(姫を離したくない。今だけでもぼくの姫なのだから)
と強く思う。
窓の外では、桜の樹が秋風に、さわさわと葉音をたてて、そよいでいた。