◇桜ものがたり◇
「はい」
祐里は、柾彦の心労を感じ、柾彦の背中に手を回して、
(いつも、優しく守ってくださる柾彦さま。
いかがされたのでございますか)
と、こころの中で呟く。
祐里は、柾彦が大好きだった。
光祐への愛とは、全く違う愛情を感じており、失いたくない存在だった。
柾彦が自分を好いていることは以前から感じていた。
勿論、光祐の妻として、それに応えることはできない。
それでも、柾彦との楽しい時間を失いたくはなかった。
祐里は、自分のその想いが、柾彦を苦しめていることを改めて感じ、
(柾彦さまの優しさに甘えてばかりの私がいけないのでございます)
と、自身を責める。
柾彦は
(このまま時間よ、止まっておくれ)
と、強く念じていた。
その時、扉が叩かれた。