◇桜ものがたり◇
柾彦は、驚いて反射的に祐里を離した。
「はい。どうぞ」
柾彦は、辛うじて返事をする。
「祐里さん、こちらでしたのね。
お茶にお誘いしようと思って捜しておりましたのよ。
柾彦さんも一段落したら、いらっしゃい」
結子は、柾彦の動揺した表情に気付きながらも、
明るく祐里へ声をかける。
「はい、おばさま。
お誘い、ありがとうございます。
柾彦さまとのお話が終わりましたら、すぐに伺います」
祐里は、落ち着いた笑顔を結子に向ける。
「それでは、お茶の準備をして待っていますね。
祐里さん、お茶が冷めないうちにお早くね」
結子は、すぐに扉を閉めて、廊下へと消えた。
廊下に出た祐子は、しばらくの間、壁に凭れて、
柾彦の一途さを不憫に思い、
柾彦の祐里に対する恋慕を憂慮していた。