◇桜ものがたり◇

 
 柾彦は、扉が閉まると同時に、長椅子に崩れるように座り込むと、

 顔を両手で覆った。


「柾彦さま。

 いつもお元気な柾彦さまがそのようなお顔をなさると、

 私も元気がなくなってしまいます。


 柾彦さまは、大層お疲れでございますのね」


 祐里は、長椅子の隣に座って、柾彦をふうわりと優しく抱きしめる。

 
 柾彦の激しい恋慕と祐里の穏やかな慈悲のこころが交錯して、

 二人を切なく包んでいた。


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