◇桜ものがたり◇
祐里が、鶴久病院を出ると、珍しく学校帰りの優祐が佇んでいた。
「母上さま。
そろそろ、お帰りの時間ではないかとお待ちしていました」
優祐は、学校が終わると、急に胸の内が葉の擦(こす)れるような
さわさわとした気分に陥り、祐里のことが気になって、
通学路から外れた鶴久病院に足を向けた。
「優祐さん、ありがとうございます。ご一緒に帰りましょう」
祐里は、微笑んで、優しい母の表情を優祐に向ける。
優祐の気遣いを嬉しく感じた。
優祐は、成長期に入り、
いつの間にか祐里と同じくらいの背丈になっていた。
祐里は、優祐と並んで、桜川の土手沿いの道を歩く。