◇桜ものがたり◇
「母上さまは、柾彦先生とは友だちだから、
病院のお手伝いをされているのですか」
優祐は、微かに消毒液の匂いの残る祐里に思いきって問いかける。
大好きな祐里を柾彦や入院患者から、
横取りされたように感じながらも、
そのように思うこころの狭い自分を恥じていた。
「優祐さんは、柾彦先生をお好きでございますか」
祐里は、微笑みながら優祐に問い返す。
「はい。お会いすると、楽しいお話をたくさんしてくださって、
元気付けられますので、大好きです」
優祐は、青空のように清々しい柾彦を思い出していた。
「私も柾彦先生から、いつも元気をいただいてございます。
柾彦先生は、お友だちと申し上げるよりも、
兄妹のような……
優祐さんにとっての祐雫さんのような感じでございますね」
祐里は、優祐に答えながら、自身の胸にも言い聞かせていた。
「それに、病院のお手伝いをしているのではなく、
入院されている方とお話をさせていただいてございますの」
優祐は、自身の狭いこころを反省し
(母上さまは、神さまのようなお方です)
と、祐里の慈悲深いこころに感じ入っていた。