◇桜ものがたり◇

 光祐さまは、お屋敷の八脚門をくぐり、

 手入れの行き届いた木立が並ぶ長い石畳を抜けて、

 東側の住まいである有名な建築家が設計した洋館と

 西側の亡き祖父母の住まいであった荘厳な日本家屋を

 懐かしい思いで眺めた。


 洋館と日本家屋の間には、樹齢三百年を超える桜の樹が枝を広げて、

 光祐さまの帰りを待っていた。


 光祐さまは、桜の樹に「ただいま」と声をかけて、

 洋館の玄関へと歩を進める。


「光祐坊ちゃま、お帰りなさいませ」

 女中頭の森尾あやめを先頭に女中たちが、

 玄関前で、一斉に並んで出迎える。


「ただいま、あやめ。

 皆も出迎えありがとう」

 光祐さまは、あやめへ笑顔を向ける。


 あやめは、立派になった光祐さまの姿を仰ぎ見て、

 感極まって涙ぐむ。

 他の女中たちも光祐さまの健やかな成長に見惚れていた。

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