◇桜ものがたり◇
雫姫
祐雫(ゆうな)は、白百合女学院小学校の六年生に進級した。
父の光祐よりまっすぐな性格を受け継ぎ、成績優秀で
(どうして長女の私は、桜河家の後継ぎにはなれないのかしら)
と、不思議に感じていた。
同級生たちは、流行の洋服や髪型のこと、
星稜学園小学校の誰某が素敵という話ばかりで、
話を合わせてはいたが、どこか物足りなさを感じていた。
土曜日の放課後、
祐雫は、よき理解者である柾彦を頼って、鶴久病院を訪れた。
「祐雫さん、こんにちは。
柾彦先生は、只今、ご自宅へ戻られましたよ」
祐雫が、病院の扉を開けると、
受付係の倭子(しずこ)が笑顔を向けた。
「こんにちは。それでは、ご自宅へ参ります。ごめんくださいませ」
祐雫は、受付係の倭子にお辞儀をして、自宅へ続く廊下を進んだ。
柾彦は、自宅の前で、秋の和かな日差しに輝く桜の樹を見上げていた。
十数年前に桜河のお屋敷から譲り受けた挿し木は、
見事な枝振りに成長し、それとともに鶴久病院は、益々発展していた。