◇桜ものがたり◇
「こんにちは、柾彦先生。お腹が空いたので来てしまいました」
祐雫は、にっこり笑って柾彦に駆け寄る。
「雫姫(しずくひめ)。ようこそ、鶴久城へ。
母上さまに断ってきたの。
また、内緒にして来たのでしょう」
柾彦は、祐雫の頭を撫でて微笑み返す。
祐雫は、初めて出会った頃の祐里に顔立ちがよく似てきていた。
ただ、祐雫は、はきはきとした性格で、生まれながらにして、
桜河のお嬢さまとして誰にも臆することなく育った風格を備えていた。
柾彦は、玄関の扉を開けて、祐雫を自宅に通した。