◇桜ものがたり◇
その夜、
光祐は、祐雫の部屋の障子越しに声をかける。
「祐雫、まだ、起きているの」
剣術の稽古で疲れた優祐の部屋の明かりは、消えていた。
「父上さま」
祐雫は、机から立ち上がり、障子を開けて、光祐を部屋の中に入れた。
「勉強をしていたのかね。祐雫は、勉強熱心だものね。
この頃、祐雫がつまらなそうにしているのが気になっていたのだよ」
光祐は、長椅子に座り、隣に祐雫を座らせた。
聡明で愛らしい瞳が、光祐を捉える。
「祐雫のことを気にかけてくださったのでございますか」
「もちろんだとも。可愛い私の子どもだからね」
光祐は、優しい笑顔を湛えて、大きく頷く。
「祐雫は、優祐のようにもっともっとお勉強がしとうございます。
母上さまは、いつも女の子らしくとおっしゃられまして、
祐雫にお手伝いばかり仰せになります」
祐雫は、口を尖らせて、光祐に訴えながら、
光祐の深い愛情を感じて、こころに陽が差し込んだ気分になる。