◇桜ものがたり◇

 その夜、

 光祐は、祐雫の部屋の障子越しに声をかける。

「祐雫、まだ、起きているの」


 剣術の稽古で疲れた優祐の部屋の明かりは、消えていた。


「父上さま」

 祐雫は、机から立ち上がり、障子を開けて、光祐を部屋の中に入れた。


「勉強をしていたのかね。祐雫は、勉強熱心だものね。

 この頃、祐雫がつまらなそうにしているのが気になっていたのだよ」

 光祐は、長椅子に座り、隣に祐雫を座らせた。

 聡明で愛らしい瞳が、光祐を捉える。


「祐雫のことを気にかけてくださったのでございますか」


「もちろんだとも。可愛い私の子どもだからね」

 光祐は、優しい笑顔を湛えて、大きく頷く。


「祐雫は、優祐のようにもっともっとお勉強がしとうございます。

 母上さまは、いつも女の子らしくとおっしゃられまして、

 祐雫にお手伝いばかり仰せになります」

 祐雫は、口を尖らせて、光祐に訴えながら、

 光祐の深い愛情を感じて、こころに陽が差し込んだ気分になる。

< 156 / 284 >

この作品をシェア

pagetop