◇桜ものがたり◇

「光祐さん、お帰りなさいませ。

 お帰りを待ち侘びてございましたのよ。

 祐里さん、ご苦労さま。

 ご一緒にお茶をいただきましょう」

 奥さまは、居間から顔を出して、成長した光祐さまを誇らしげに見上げた。


「母上さま、ただいま帰りました」

 光祐さまは、よく透る澄んだ声で挨拶をしながら、

 相変わらず華やかで美しい奥さまを誇らしく見つめる。


「奥さま、ただいま帰りました。

 遅くなりまして申し訳ございません。

 お茶を入れて参ります」

 祐里は、泣いたあとの顔が気になって、廊下の鏡を覗きこみ、

 洗面室に立ち寄って、顔を洗うと、台所へと急いだ。

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