◇桜ものがたり◇
柾彦は、笙子の紹介を兼ねて、銀杏亭へ車を走らせた。
杏子の熱い好奇な視線を浴びながら、
柾彦は、笙子と向かい合わせで、遅い昼食を食べる。
柾彦は、祐里と過ごす掴み処のなかったしあわせとは異なる
今まで感じたことのない満ち足りたしあわせを感じている。
「杏子の言う通り、柾彦先生を好いてくださる方に巡り合ったでしょ。
それに若くて可愛らしい方なのですもの。
本当によかったですわね」
杏子は、おひさまのような明るい声で、俯き加減の笙子へ笑いかけた。
「ありがとう、杏子。これでまた杏子には頭が上がらないよ」
柾彦は、背中を押してくれた杏子へ感謝していた。
「笙子さま、柾彦先生がじれったい時は、杏子におっしゃってくださいませ。
厨房の火をお貸ししますからね」
杏子は、大袈裟に笑った。
「ぼくは、食材ではないのだから」
柾彦は、慌てて口を挟む。
「杏子さま、ご指導をよろしくお願い申し上げます」
柾彦と杏子の笑い話に、笙子は、すっかり打ち解けて、
一緒に声をたてて笑っていた。