◇桜ものがたり◇
柾彦は、駆け足で沈む師走の夕日が輝く中、
笙子を送って車を走らせた。
「笙子さんと一緒にいると時間が一瞬のようだね。
このままぼくの家に連れて帰りたいくらいだ。
明日は、ぼくの父母へ紹介するよ」
柾彦は、笙子と離れることが寂しく感じられ、
一刻も早く結婚したいと思う。
「はい、柾彦さま。
父上さまと母上さまに気に入っていただけると嬉しゅうございます」
「笙子さんなら、一目で気に入るよ」
笙子は、後部座席から、運転席の柾彦へ熱い想いで応え、
柾彦は、鏡越しに頷き返す。
「奇麗な夕日だね」
柾彦は、路肩に車を停めて笙子を降ろし、
ちょうど山に沈んでいく緋色の夕日を笙子と寄り添って眺める。
「笙子さん、桜の頃に、ぼくと結婚してください。
今すぐにでも結婚したいくらいだけれど、いろいろと準備があって、
そういうわけにもいかないだろうからね。
ぼくは、この夕日のように熱く笙子さんを愛しているよ」
「はい、柾彦さま。喜んでお受けいたします。
どうぞ笙子をよろしくお願い申し上げます」
柾彦は、真剣なまなざしで笙子を見つめ、肩を抱き寄せる。
笙子は、柾彦の情熱的な愛情を感じ、 柾彦へぴったりと寄り添い、
寒さも忘れて、しあわせいっぱいに輝いていた。