◇桜ものがたり◇
桜の姫
祐里は、この年最後の鶴久病院での見舞い奉仕活動を終え、
結子とお茶の時間を過ごしていた。
「祐里さん、ようやく、柾彦も結婚に辿り着きそうでございます」
結子は、祐里に温かい紅茶を差し出しながら満足げに笑う。
「本当によろしゅうございました。
柾彦さまには、しあわせになっていただきとうございます」
祐里は、温かい紅茶の香りの中で、柾彦のしあわせを願っていた。
祐里は、銀杏亭の杏子がいつまでも独り身の柾彦の結婚を心配して、
萌に相談し、萌の仲介で、華道の弟子である桐生笙子と
交際していることを聞かされて、心から祝福の気持ちを抱いていた。
「これも、祐里さんのお陰でございますわ」
結子は、感謝の気持ちを込めて、祐里を見つめる。
「私は、何もいたしておりません。萌さまのご尽力でございましょう」
祐里は、謙虚に応じた。
「ずっと祐里さんのことを好いていた柾彦さんが、道を踏み外さないように、
祐里さんが、気を遣ってくださったからでございます。
祐里さんと祐里さんを疑うことなく寄越してくださった光祐さんに、
本当に感謝してございますのよ」
結子は、高校生の柾彦が、初めて祐里に恋をしてからのことを
思い出していた。