◇桜ものがたり◇

 結子と祐里が話をしているところに、柾彦と笙子が顔を出した。


「姫。こちらだったのですね。

 笙子さんを紹介しようと思って探していたのですよ」

 柾彦は、笙子の肩を優しく引き寄せた。


「柾彦さま、笙子さまの前で姫とお呼びになられては……

 これからは、お辞めくださいませ」

 祐里は、困った顔をして柾彦を窘める。


「でも、姫は、姫だもの。

 姫に会ってから、今まで、姫としか呼んだことがないから、

 今更、他の名では呼べないよ。

 桜河の若奥さまって、呼べばいいのかな」

 柾彦は、おどけながらも、照れて困っていた。


「祐里さま、私は構いません。

 柾彦さまが、祐里さまをずっとそのようにお呼びして来られたので

 ございますから、今更、変えずともよろしゅうございます。

 それに祐里さまには、

 姫という愛称がとてもよくお似合いでございますもの」

 笙子は、祐里をずっと想っていた柾彦に、

 現在愛されているだけで嬉しかった。


「まぁ、笙子さま。本当に私は、姫ではございませんのよ」

 祐里は、困惑しながら慌てて打ち消した。


「私もこれからは、柾彦さまと同様に、姫さまとお呼びいたします。

 姫さま、どうぞ、よろしくお願い申し上げます」

 笙子は、柾彦に寄り添って、丁寧に祐里にお辞儀した。


「これで決まりだね。姫は、今まで通り姫だからね」

 柾彦は、笙子の肩を抱きながら、しあわせに溢れる笑顔を見せた。


「笙子さま、こちらこそ、どうぞよろしくお願い申し上げます」

 祐里は、諦めて笙子にお辞儀を返す。


 柾彦は、ようやく、祐里への恋慕から卒業できそうな気がしていた。

 そして、笙子をこれから最愛の女性として愛していこうと決心した。


 祐里は、仲睦まじい柾彦と笙子をこころから祝福しながら、

 この時を待ち焦がれていた結子とともに安堵していた。



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