◇桜ものがたり◇

 
 柾彦は、まことにしあわせいっぱいだった。



 祐里をひたすら守り通して、恋い慕い、その友情を壊すことなく、

 今、笙子というかけがえのない女性に巡り合い、

溢れる愛情を注いでいた。



 柾彦の恋は、祐里から、笙子への愛に、羽ばたいたのだった。



 鶴久病院の冬枯れの桜は、寒風の中で、

着々と芽吹く準備を始めていた。


 来春の柾彦と笙子の婚礼の日の華やかな開花を夢見て、

静かに枝を揺らし、

 柾彦と笙子へ

 「永久に幸あれ」

 と、微笑みかけているようであった。

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