◇桜ものがたり◇
血筋
鎮守の神の森は、ざわめいていた。
社(やしろ)を守る神の守(もり)が交代の時を迎えようとしていた。
榊原八千代(さかきばらやちよ)は、長い間行方不明になっている
長男の榊原春樹(さかきばらはるき)を探していた。
思いの方角へ人を遣わし捜索したが、
不思議なことに行方が判らなかった。
春樹の結界の力か、
はたまた、未知の力が及んでいるように感じられた。
思い起こせば、春樹の力は、生まれながらにして強く、
神の守の風格を備えていた。
弟の冬樹とは比べものにならなかった。
それ故に八千代は、春樹に期待していた。
突然、何の力も持たない山里の小夜と結婚したいと言い出して、
猛反対すると姿を消した。
その足あとを途中までは辿ることができた。
にもかかわらず、突然、春樹の気配が掻き消えた。
八千代は、恐れていた春樹の死を自ら確認する決心をして、
春樹との決別を果たす旅に出る。