◇桜ものがたり◇
次の日は、朝から晴れ渡り、
白い薄雲が桜山の裾野にたなびいていた。
「爺、おはようございます。今日は一日、よろしくお願いします」
優祐は、朝食を終えると弁当と水筒の包みを持って、
森尾の車に乗り込む。
「優祐、遅うございます」
祐雫が既に車に乗りこんで微笑んでいた。
「優坊ちゃん、おはようございます。
こちらこそよろしくお願いします。
さて、出発いたします。祐里さま、行って参ります」
森尾は、運転席から、祐里に手を振る。
「森尾さん、よろしくお願いします。
優祐さん、祐雫さん、気をつけていってらっしゃいませ」
祐里は、玄関の車寄せで、手を振って見送った。
見送りながら異様な気分に襲われていた。
それが何かは分からなかった。
今までに感じたことのない懐かしい気分と
得体の知れない恐ろしさが交錯していた。
「桜さん、何かが起こりそうな気がいたします。
どうぞ桜河の家族をお守りくださいませ」
祐里は、桜の樹に手を合わせて祈った。