◇桜ものがたり◇
光祐は、夕食を終えて客間に顔を出した。
「祐里、午後からずっとで、疲れただろう。
おじいさまの顔色も随分よくなったことだし、
ぼくが代わるから、食事をして、部屋で休みなさい」
光祐は、優しい微笑みを向ける。
「光祐さま、私は大丈夫でございます」
「祐里、ぼくの言うことをきいておくれ」
光祐は、蒼白な祐里の顔色を気遣って、祐里の手に自分の手を添える。
光祐の深い愛情が手の温もりを通して感じられた。
「はい、光祐さま。よろしくお願い申し上げます。
お爺さま、それではごゆっくりとお休みくださいませ」
祐里は、潤んだ瞳を光祐に向けると頷いて、客間を後にした。
客間の前では、優祐と祐雫が心配して待っていた。
「母上さま、お疲れでございましょう。申し訳ありません。
ぼくがお爺さまをお連れしたからいけなかったのですね」
優祐は、突然の出来事にこころを痛めていた。
八千代の道案内をかってでなければ、このような事態に
ならなかったのではないかと後悔していた。
「優祐さん、そのようなことはございませんわ。
優祐さん、祐雫さん、心配してくださってありがとうございます。
私は大丈夫でございます」
祐里は、優しい心遣いの優祐と祐雫に心配をかけないように、
気分を明るく奮い立たせる。
「母上さま、夕食がまだでございましょう。
お婆さまと婆やが心配してございます。さぁ、食堂へ参りましょう」
祐雫は、祐里から膳を受け取り、優祐は、祐里の手を引いて、
長い廊下を食堂へと進んだ。
優祐と祐雫は、祐里を守りたい思いでいっぱいだった。