◇桜ものがたり◇
「光祐くんの意向は相分かった。ただ、神の森がどうするかじゃ。
そして、祐里がどう対応するかじゃ。
春樹に死をもたらせた強力な力なのだから、
神の森のなさることはわしには推測がつかぬのじゃ」
八千代は、神の森に祐里を連れ帰れば、
再び桜河のお屋敷には、戻れないであろうと感じていた。
それを光祐には告げることができなかった。
「私は、祐里を信じています。
あの崖崩れの時も祐里は生き残り、そして、私の元に来ました。
祐里は、神の守としてではなく、
私と巡り合うために生まれて来たのです。
たとえ、神さまでも私と祐里を引き裂くことはできません。
私は、遠く離れていても、祐里を信じてこころで守ります」
光祐は、八千代の瞳を見つめて、きっぱりと断言する。
「祐里は、ほんにしあわせものじゃなぁ」
八千代は、しみじみと若い光祐の懐の大きさに感じ入った。
「榊原さま、夜も更けてまいりました。そろそろお休みください。
桜の樹には安眠を妨げないよう、私がよく説明しておきます。
まずは、お疲れをお癒しください。
それではおやすみなさい」
光祐は、八千代に会釈して座敷を出た。