◇桜ものがたり◇
十三歳になられた光祐さまは、都の学校へ進学されることになる。
「光祐さまが都へお出でになられましたら、
祐里のお仕事がなくなってしまいます。
祐里は、お屋敷を出て行かなければなりませんの」
光祐さまが都に発たれる前日、
私は、心の底から漆黒の闇が立ち込める気分の中、
恐る恐る光祐さまに問うた。
「ぼくは、しっかり勉強をして立派になって、祐里のもとへ帰って来る。
祐里は、ぼくのお嫁さんになるのだよ。
それまでの祐里の仕事は、父上さまと母上さまに甘えて、
お二人を淋しがらせないことだ。頼んだよ、祐里」
光祐さまは、ゆったりと包み込むような笑顔で、
私の手を握っておっしゃった。