◇桜ものがたり◇
神の森に発つ前日の終業式帰り、
柾彦が小さな袋を持って、優祐の前に現れた。
「優祐くん、明日、発つのだろう。
何かの時に役に立つかもしれないから、これを持っていくといいよ。
母上さまには内緒だよ。
ぼくが言うのもおかしいけれど、
母上さまをしっかり守ってあげるのだよ」
柾彦は、青空のような笑顔を優祐に向ける。
かつての守人として、多少なりとも祐里の手助けが出来ればと
考えて準備したものだった。
「はい。柾彦先生、ありがとうございます。
母は、ぼくがしっかり守ります」
優祐は、袋を胸に抱いて、決意の瞳を柾彦へ向ける。
翌日、祐里と優祐は、お屋敷で家族にしばしの別れを告げて、
八千代と共に早朝の桜川駅から、汽車で旅立った。
夕方まで汽車に揺られて、茜色に輝く夕日のトンネルを抜けると、
汽車は、宵闇の緑が原駅に到着した。
駅舎の目前に壮大な神の森が広がっていた。