◇桜ものがたり◇
神の森
祐里は、静寂の中で目を覚ます。
遠くで夜明けを告げる鳥が鳴いていた。
隣の布団では、優祐が静かな寝息をたてている。
祐里は、優祐を起こさないよう静かに起き上がると着替えをする。
屋外へ出ると、闇夜が白みかけていた。
外気が冷たく感じられる。
祐里は、誘われるように、朝露と靄に覆われた森に入る。
祐里の身体の奥深くで、森は、懐かしい音色を奏でていた。
一度も訪れたことのない森が、祐里を受け入れていた。
祐里は、母に抱かれているような優しい心地を感じ、大きく深呼吸する。
森の空気が血液を通して、祐里の体全身に行き渡っていく。
神の森は、祐里の中に流れる榊原家の血筋を感じとり、
すんなりと受け入れた。