◇桜ものがたり◇
そして、今、神の森がこの得体の知れない娘を
必要としたのを目の当たりにした。
冬樹は、春樹に対する悔しさが込み上げて、
こころが漆黒の闇に滾っていく。
「何故でございますの」
祐里は、冷ややかな敵意を感じる。
父の優しい声の思い出を壊された気がした。
「桜は、神の森を枯らす樹だからな」
冬樹は、春樹への怒りから、
祐里へ冷たい言葉をぶつけながら、
それでいて視線を合わせられずに反らしていた。
小夜の優しい笑顔が、こころの奥からじわじわと蘇ってきていた。
「そのようなことはございません。
桜の樹は何時も私を守ってくださいました」
祐里は、驚いて冬樹をしっかりと見つめる。
(桜が神の森を枯らす樹であるならば、
初めから神の森は、私を排除する筈でございます)
と祐里は思う。