◇桜ものがたり◇


 ◇◇◇冬樹、こころを磨け。吾は、曇ったこころの守り人は要らぬ◇◇◇


 神の森から、戒めの声が響く。


「神の森さま、叔父さまのこころは曇ってなどおりません」

 祐里は、思わず口にして、冬樹に走り寄り、手を握っていた。

 冬樹からは、痛いほどの淋しさが感じられた。


「神の森までが、私を拒絶するのか」

 冬樹は、祐里の手を振り切り、拳を握り締めて、森の奥へ進んだ。


 祐里は、言い知れない哀しみを感じながら、

 霊香(れいきょう)漂う朝靄の中へと消えていく冬樹の後姿を

 しばらく佇んで見送っていた。


 樹々の間から洩れる朝日が祐里の顔を照らす。

 祐里は、我に返り、靄(もや)が次第に晴れていく森を歩いていく。




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