◇桜ものがたり◇

 何処まであるいても、深い森が続いていた。

 祐里は、冬樹の淋しさを憂いつつも、気を取り直して、社へ引き返す。


 途中、折れ曲がっている樹の枝が、冬樹のこころのように

 痛々しく思えて何気なく触れる。

 と、同時に樹の枝は、元通りに繋がり、青々として風に揺れた。


 祐里は、懐かしい気分に浸り、

 生まれてからずっとこの地で生きて来た錯覚に陥った。


 何もかもが、子どもの頃から、見知った風景に思えた。

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