◇桜ものがたり◇
「おはようございます。母上さま。朝の散歩でございましたか」
優祐が起きて、布団を片付けていた。
「ええ。おはようございます、優祐さん」
祐里は、優祐の笑顔に励まされて、元気を取り戻す。
「お台所の手伝いをして参ります。
優祐さんは、朝食まで、ゆっくりなさいね」
祐里は、廊下を渡って台所へ向かった。
「雪乃叔母さま、おはようございます。手伝いをさせていただきます」
祐里は、台所で朝食の支度をする叔母の雪乃に声をかけた。
竈の火が起こり、ご飯が炊ける匂いと、
味噌汁の匂いが湯気とともに立ち上る。
「祐里さま、おはようございます。
父上さまから祐里さまは、神の御子と聞いてございます。
そのようなお方に台所のお手伝いをしていただいては、
罰が当たってしまいます」
竈(かまど)の火加減を見ていた雪乃は、祐里の声で振り返ると、
驚いた顔を向ける。
「まぁ、そのようなことはございません。
私は、お爺さまをお送りして、
お父さまがお生まれになられた地を拝見しに伺っただけでございます。
しばらくお世話になりますので、
どのようなことでもご遠慮なくお申し付けくださいませ」
昨夜、初めて会った時から祐里は、物静かで、
森の空気のように澄んだ気立ての雪乃へ、好感を抱いていた。