◇桜ものがたり◇

「おかしいな。まだ、数歩も歩いていないのに。

 母上が心配されては困るなぁ」

 優祐は、目を閉じて深呼吸をする。

 全神経を耳に集中して、人の営みの音を捜した。


 ◇◇◇優祐、おかえり。神の森へようこそ◇◇◇


 優祐のこころの奥深くで、声がする。


「誰。どうして、ぼくの名前を知っているの」

 優祐は、こころの声に答えた。



 ◇◇◇吾は神の森、榊原の血筋を引き継ぐ者を歓迎する◇◇◇



「ぼくは、桜河家の後継ぎですよ。

 でも、神さまの森は、一目で大好きになりました。

 夏休みの間は、ここにいますから、どうぞよろしくお願いします」

 優祐は、瞬時に、神の森を友だちのように感じていた。



 ◇◇◇優祐、吾は、そなたを気に入った◇◇◇



「神さま、母上が心配されますので、

ぼくは、そろそろ社に戻らなければなりません」


 優祐が言い終わらないうちに背後の森が開けて社が現れた。



 ◇◇◇優祐、いつでも遊びにくるがよい◇◇◇
 


 神の森は、そよ風で、優祐を取り巻いた。



「ありがとうございます。また来ます」

 優祐は、神の森にぺこりとお辞儀をして社へ戻った。

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