◇桜ものがたり◇
「申し訳ありません。私って、そそっかしくて。
痛っ」
美和子は、割れた紅茶茶碗を盆に集めながら、破片で指を切る。
「大丈夫」
光祐は、慌ててポケットからハンカチを取り出すと、
美和子の血が滲んだ指を、止血のために両手で押さえた。
美和子は、愛の炎を点火して、光祐の手に左手を添える。
美和子の身体から、牡丹の香水の香りが発ち、
光祐を誘惑の香りで包み込む。
「副社長、ありがとうございます。なんてお優しいお方」
美和子は、恋する熱い視線で、光祐を捉える。
光祐は、美和子の大きな瞳に捉えられて、熱い視線を浴びながら、
しばらくの間、そのまま見つめ合う形で、指を押さえていた。