◇桜ものがたり◇

 光祐は、駐車場から車を玄関前へ回し、運転席の窓を開けて、

 美和子に後ろの扉を指し示した。


 美和子は、気付かないふりをして、前の扉を開けて助手席に乗り込む。


 車のライトで照らされた前方の桜の樹では、

 今まさに大きな蜘蛛が、巣にかかった獲物を捕らえようとしていた。


 助手席に座った美和子は、短いスカートから、美しい脚を伸ばして、

 光祐を誘惑する。


 「桑津くんの家は、たしか雲ヶ谷(くもがや)だったね」

 光祐は、誘惑されそうな気分に陥り、

 美和子の美しい脚元から、慌てて視線を逸らす。

 
 光祐は、息苦しくなり、車の窓を開けた。


 

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