◇桜ものがたり◇
美和子は、光祐の視線を感じて、自信を強めて、大胆な行動を取る。
「副社長、家には帰りたくありません。
今夜は、ずっと副社長と一緒にいたいのです」
美和子は、車を発進させようとした光祐へ、縋(すが)りついて、
強引にくちづける。
入社したその日から、美和子は、光り輝くような年上の光祐を
頼もしく感じて、一目惚れした。
光祐は、美和子の大胆かつ情熱的な突然の行動に驚いて、
蜘蛛の巣に捕えられた獲物の如く、美和子を抱いたまま静止していた。
その時、何処からともなく一陣の風が起こって、
桜の並木が、ざわざわと音をたてて揺れた。
光祐は、桜の葉音で、我に帰ると、優しく美和子を離した。