◇桜ものがたり◇
 
 美和子は、光祐の視線を感じて、自信を強めて、大胆な行動を取る。


「副社長、家には帰りたくありません。

 今夜は、ずっと副社長と一緒にいたいのです」

 美和子は、車を発進させようとした光祐へ、縋(すが)りついて、

 強引にくちづける。


 入社したその日から、美和子は、光り輝くような年上の光祐を

 頼もしく感じて、一目惚れした。


 光祐は、美和子の大胆かつ情熱的な突然の行動に驚いて、

 蜘蛛の巣に捕えられた獲物の如く、美和子を抱いたまま静止していた。


 その時、何処からともなく一陣の風が起こって、

 桜の並木が、ざわざわと音をたてて揺れた。


 光祐は、桜の葉音で、我に帰ると、優しく美和子を離した。


< 222 / 284 >

この作品をシェア

pagetop