◇桜ものがたり◇
「桑津くんは、誤解をしているようだね。
確かに妻は、所用で実家へ戻ってはいるが、
わたしたち夫婦は、離婚などしないよ。
わたしは、妻を深く愛している。
このまま、送っていくと、
わたしが君に何かおかしなことをしたように思われそうだね。
とにかく、その洋服だけでもどうにかしなければ……
桑津くんは、まだ若い。
これから多くの良縁があるのだから、
もっと自分を大切にしたほうがいいね」
光祐は、美和子の誘惑を断ち切るように、車を発進させ、
波立つこころを抑えて、深まる闇の中に車を加速した。