◇桜ものがたり◇

「桑津くんは、誤解をしているようだね。

 確かに妻は、所用で実家へ戻ってはいるが、

 わたしたち夫婦は、離婚などしないよ。

 わたしは、妻を深く愛している。


 このまま、送っていくと、

 わたしが君に何かおかしなことをしたように思われそうだね。
  

 とにかく、その洋服だけでもどうにかしなければ……

 桑津くんは、まだ若い。

 これから多くの良縁があるのだから、

 もっと自分を大切にしたほうがいいね」


 光祐は、美和子の誘惑を断ち切るように、車を発進させ、

 波立つこころを抑えて、深まる闇の中に車を加速した。

< 224 / 284 >

この作品をシェア

pagetop