◇桜ものがたり◇
人影が森に消えるのが見えた。冬樹だった。
(森で何かが起きたのでございましょうか)
祐里は、胸騒ぎがして、冬樹の後を追いかける。
雨は、容赦なく祐里の身体を叩いた。
祐里は、叩きつける雨の中を、暗闇に吸い込まれるように走る。
冬樹の姿は、一向に見えなかった。
それでも、この先に必ず冬樹がいると確信できた。
気が付くと、前方に川が見えていた。
いや、暗闇の中で、見えたのではなく感じたのだった。
崖下の川を見下ろす形で、冬樹は、川の岸壁に佇み、
雨に打たれていた。