◇桜ものがたり◇

「小夜っ」

 冬樹は、驚愕の表情で祐里を見つめ、

 渾身の力を込めて、祐里を抱きしめる。


 祐里は、遠退く意識のなかで過去に遡るような感覚に包まれて、

 冬樹と小夜の幻影を見ていた。


「小夜。帰って来てくれたんだね。

 あれからずっと、死んだものとばかり思っていたのだよ」


 冬樹の歓喜のこころを映して雨が止み、煌煌とした明るい月が、

 雲を掻き消して輝いた。


「ぼくは、小夜が好きだ。兄上以上に小夜を愛している」

 冬樹の強い念が、時間を逆行させていく。


 祐里は、冬樹とともに時間の逆流に巻き込まれていった。


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