◇桜ものがたり◇
………
春樹と小夜の笑顔があった。
生まれて間もなくの赤子は、小夜に抱かれて乳を飲んでいる。
「小夜、ほんとうに愛らしい子だね」
笑顔の春樹が側で小夜と赤子を見つめていた。
「春樹さま、こうして乳を飲ませているだけでしあわせな気分になります」
赤子は、小さな体で一生懸命に乳を飲んでいる。
小夜は、赤子を抱いているだけで、
産後の体調が戻っていくように感じられた。
「この子は、強い力を持っているようだ。
それにしても、右手を固く閉じているのはどうしてなのだろう」
春樹は、赤子の固く閉じられた右手に触れた。
赤子は、生まれてから一度も、右手を開いたことがない。
「きっと、幸運を握っているのですわ。
そのような話を以前に聞いたことがあります」
小夜は、眠った赤子をそっと布団に寝かせた。